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風土改革の実例
​~始まり 第一幕~

 

ある会社の研究開発部門の風土改革

マネージャーが社長と議論して、いきつく先は改革だった。共有の価値観・アイデンティティー・ビジョンを作るまでの過程を追った実例の物語である。

(実例としてのストーリーですが、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。)

NYC Skyline BW

改革の始まり

​改革の要請が来た

 風土改革の要請が来た。ありたい姿visionを作り、行動計画を半年で作れという業務命令が社長から下ったのだ。研究開発系の部長たちは、それなりに考えるのだが、問題意識、捉え方、課題認識がバラバラなのである。どうやって創り上げるのだろうか。たびたびこういった要請が舞い込むのである。そういう話なら筆者に相談せよという決定が要請のあった会社の本部会議で決定したようだ。

 依頼があった会社はNP社。食品事業を営む年間売上高100億円程度の中堅で、ホールディングス体制下の会社であり、食品の形態によって大きく四つの事業を行っている。要請があったのはその会社の研究開発部門であり、その組織は、商品形態毎に第1事業研究部から第4事業研究部と新規カテゴリーを創出する新規事業研究部、そしてそれらを管理する研究推進管理部からなっている。

きっかけはある懇親会にて第3事業研究部の部長が3M社のように15%ルールをやりたいと社長に噛み付いた事のようである。 何が不満で噛み付いたのかは、これからヒアリングに行くわけだが、事前に見せて頂いた資料を見ると視点や考え方など、バラバラなのは一目瞭然であった。さてどうやって料理するか?と始まりである。(3M社の15%ルールとは何か簡単に補足しておく。ポストイットをはじめ、さまざまなオフィスの便利グッズを生み出してきた3M社には15%ルールという面白いルールがある。研究者や技術者自身が「ビジネスに役立つ」と考えるものであれば、本業とは別に、労働時間の15%を将来に向けた独自の研究テーマにあてることが認められているのである。)

そして、依頼先でヒアリングしたのは第1事業研究部の西田部長。話を聞きながら彼女を観察すると、目線はずーっと下を見ている。かつて同じ会社で働いていた仲間である。いつもの彼女ではない。彼女は突如経営からの要請を受けてなんでこんな事を私がやらなければならないの?って、思っている。

「でもなんとかしなきゃ。」

という思いで私に電話をしてきて、今ヒアリングをしているのだ。彼女のすごい事は、私にはできない、でもなんとかしなきゃという前向きな気持ちで、すがるような感じで電話をしてきたことなのです。話を聞けば聴くほど自信の無い彼女がそこにいたのであった。

こうなるとこちらも必死になって助けてあげたいと思うのである。そしていろいろと下調べに取り掛かるのであるが、その会社の社長方針、その次席の担当の役員方針、・・・・・など調査して、その問題は何か課題は何かと仮説は仮説として勝手に考えるのである。そして進め方の提案を作っていくのである。

そして数日後にとりあえずキックオフの2時間の会議をセットした。1)背景や目的は何か?その必要性は? 2)アウトプットイメージは? 3)今後のスケジュールは? などを本音で話してもらう予定である。集まるのは、その部門のトップの役員と経営企画の役員、そして改革を提案する方の5人の部長である。気になったことがあったので、次のようにその西田部長にメールした。

「その組織は役員がいても本音で話せますか?、そうでないなら、役員にははずしてもらった方が良いのでは?」と。

気になったこととは、上司がいるとしゃべり辛いのでは? ただそれだけだった。すると、返信が帰ってきた。

「本音では話せると思う。」

と西田部長。

本当かな? でも事実を知らないので、

「それならそのままやりましょう」

と返信。

すると、次の返信のメールには

「難易度の高いというか、改革度の高いチャレンジテーマを設定すると、必然的に、メンバーは横断的になるので、テーマありき!で考えたほうがいいかと・・・。と思うこと自体に、あまりしっくりきていません。」

という内容も帰ってきたのである。そこですかさず状況を察知して、返信した。

「この辺のお話は、多分ですが、根本的な根っこの部分(心の部分)で、部門間の融合がなされていない状況が、そう感じさせるのだと察します。かなり暗黙的ではあるが、そう感じさせる組織文化があるのではないでしょうか?(違っていたらごめんなさい) ここをつなぐのは相当の時間と努力を要します。心の部分を融合させるのがご存知の通り組織のValuesです。オフサイト(仕事を完全にオフにして)の合宿は必須かも知れませんね。」

また、次のようにも付け加えた。

「その暗黙的な組織文化を掴まえていないと風土は変化していきません。さらに、風土を変えるためには意識を変えなければ!と思いがちですが、そうではなく、仕事のプロセスを変えるのが一番効果的です。当日は、何が起こるやらわかりませんが、少なくとも、次に集まる日程やその頻度などは決めましょう。キックオフですから、問題意識だけでも持って帰ってもらいたいと思っております。」と。

彼女は先のメールでこう結ぶ。

「全体を包含した大網の改善活動により各部員の活動やモチベーションの活性化がはかられるような仕組みをつくることができるとすれば、このうえない喜びです。」

ここが彼女のやりたいことなのだ。少し見えた気がする。

こちらが用意した資料はVMV(VALUES・MISSION・ VISION)(後述)の考え方や、ニューロロジカルレベル(後述)による見方、アプローチの一例である。特に風土文化についてのアプローチについてはお馴染みの7S分析(後述)を活用した事例を用意した。これはあくまでも時間が余った場合に説明するために用意したもので、基本的には先の3項を本音で話してもらうのが趣旨である。

その日が来た。やはりはじめての会社、改革のキックオフは緊張するものである。自己紹介はそこそこにして、ディスカッション中心に進めて見ると、ものづくりの魂を価値観の所で話す人、手法を話す人、という感じである。ものづくりの創造性とか、チャレンジ精神だとか、結局蓋を開いて見るとものづくりの魂に近い所で話はしているのである。ただ。お互いの価値観や違うレベル(レベルは後述:ロジカルレベル)の所で、話がかみあっているのかいないのか、微妙な線であった。だからといってこちらから突っ込むと主体性を失うので黙ってほっといて話の流れに身を寄せたのである。西田部長は流れに身を任せながらも、

「でもー、本当にそうなのかなー?」

という発言がところところで聞こえてくる。それはこの本部だけの話ではなくて、会社全体の話ではないかとも発言している。西田部長の価値観はまだこの段階ではまだ見せていないようだ。何かを言い切れない部分が見えた。もう一人、新規事業を睨んだ新しい事をやっている所の野原部長は、

「まだ、改革のこの話には乗り切れてないんです」と発言。

これには参ったが、その理由を聞くと、

「すでに今話し合われている事をやっている部署だし、それができているので、あまり、、、、」というような感じ。逆に

「新らしい事をやっていく事に不安があるんです」

との事のようだ。

ここ1、2年で立ち上がった部署のため不安の方が多いのだろうか?そんなチャレンジをした事がないから、こういった新しい事をやるのは不安なのだろうか。

そして、その後もばくとした様々な話が進んでいったが、こちらが用意した一通りの資料を説明し、組織の価値観とは何かということを決めるほうが良いのではないか?という話をして終わった。

その夜は出席者全員と何故か会長や取締役も含めた懇親会へなだれ込んだ。飲みながら少し言葉もなめらかになってくると、結構会長に向かって、こうだ!ああだ!と、言っているではないか! なるほどそうか! この会社は実は本音で話せる文化は経営者も含めこの世代は持っているのだと実感したし、西田部長の言う通りであった。

そして数日後、全く別の所から筆者へ茶々が入った。この改革はスピードをあげてとにかく早く結果を出すようにして欲しいとの要請である。ホールディングスにおいてこの会社を統括している部署の部長である。その理由は、売り上げが芳しくなく、やはり成長起動に載せるにはチャレンジングな精神を早く注入して仕組みを作り、売り上げを上げることであった。

ちょっと待った! 対象の彼らはこの要請をいつも耳にし、業務命令だからしょうがなくそれをやってきた結果、今こんな状況になっているのではないか。ただ、その命題だけで進むとまずいなと思いながら筆者は軽くうなずいた。それは何かというと、明日の飯と将来の飯の話なのである。多分それは戦略配分だけの話だろうと勝手に解釈したから、うなずいて、了解したのである。ただ、業務命令を鵜呑みにさせる文化を打破したいと思っている彼らにそれを強要してはならないと自分に言い聞かせたのも事実である。なんともいいがたいが明日の飯も大事であるし、将来の飯の種も重要なのである。彼ら自身がそれに気づき、自ら行動を起こしていって欲しいという思いが、その要請を聞きながら頭の中によぎったのである。

メンバーの一人から、

「キックオフで今後の日程は決めたけど次集まるまでに何もしなくていいんでしょうか?宿題くらい作った方がいいのではないのかな?」

という話をもらった。全くその通りである。ならば、自分でメンバーにその話をして、次何を話すべきかという問いかけを自分からすればいいのに、こちらを頼ってくるのである。積極的な考え方で提案してくるのは良いのだが、主体は誰だ!と少しばかり腹立つのは、筆者がそれをやってくれるだろうという、自分ではなく、自分以外の誰かにしてしまう文化がこの会社にはあるのかな?ということが頭の中に浮かんだからである。主語が私になってもらいたいところである。それがなければ推進しないのは見えている。これが本当ならば文化は怖い。カリスマリーダーの指示を待たなければ(リーダー不在であれば)何もできないということである。

ということを、考えはしたが、筆者も大きな車輪のひと転がし目は大きな力がいることは知っている。自ら押したことの無い人たちには方法も含め最初の第一転がしについてはそれも必要だろう。ということで、こんな宿題を出した。

「組織の7Sのそれぞれの観点から、問題と課題を一覧表にしてきてください」

というものだ。ここにはシェアードバリューという価値観も入ってくるのでちょうど良いだろうという事もあり、この宿題を出したのである。7s分析とは何かといった勉強については、ネット上にいろんな解説があるので、それを紹介し、エクセルにまとめてもらうようフォーマットも作り、宿題を出したのである。

Values・Mission・Vision と ニューロロジカルレベル

valuesとは、私にとってとても大切で重要な事であり大切な価値観である。人は皆必ず持っており、日本人の場合は普段あまり意識しないで生活したり仕事をしているようであるが、必ず持っているものである。かなり無意識レベルに近い所で持っているので、顕在下で認識しづらいものだ。改めて価値観は何か?と聞かれるとすぐに答えを返す事は出来ない方の方が多いのだが、実は潜在意識下には必ず持っているので、心配はいらない。この価値観といったものはどこからくるのか?それは生まれてからこの方体験してきたものから学びそして行動として表現してきたもので、繰り返し行ってそれがいいのか悪いのか自分で確認して行くうちに身体に染み付いたものであるようだ。そして意識の中では、もうそれは顕在的に意識する必要がないほど体に定着し、そして自分の特性を司っている考え方の中心になっていくのである。これは完全に脳にプログラムされたものであるので、顕在化(普段)では自ら認識していないものである。何気ない行動は、体にインストールされたこのプログラムによって動いているのである。

このプログラムについて極端な例だが、説明をしておきたい。歯を磨く事など自然に考えずに磨いているだろうし、酔っぱらいでも気づかない内に自分の家へ帰り、知らない内にベッドに寝ている。最初は誰でも歯を磨くという事を学んだはずだし、知らない所へ行って家へ帰る時にはそのルートは確認するだろう。通勤などはこの典型で最初は最短ルートや乗り換えで走ると1本早い電車に乗り換えられるとか調べて考えながら通勤しているのに、同じ事を繰り返し慣れてくると酔っ払っても体が覚えているので帰れるというわけである。こうやって学習したものを繰り返し行う内に自分の身体にプログラムされていくのである。三つ子の魂百までというのも単なる格言ではない。しっかりと裏付けはあるのである。皆さんの身体にはどんなプログラムがインストールされているか考えた事があるだろうか。

さて、そうやっていろいろとプログラムされていくのだが、価値観はどうやって作られるのか。それを紐解くには過去の体験を記憶のある幼少期まで遡って、現在までを振り返る事だ。楽しかった事、成功体験、失敗体験、親からよくいわれた事、褒められた事、叱られた事、嫌だった事、すべてがあなたの体験であり、そこからある行動を取り繰り返し体現していくうちに価値観や信念に変わっている。それを探れるのはあなた自身だけだ。自分の人生をhappyにしたいと思うならば、特に振り返って欲しい事は、楽しかった事やわくわくした事、好きなこと成功体験である。体験それぞれは、ひとつ一つをとってみれば、点かもしれないが、それらの点と点についてそこに潜むその行動の共通点を見つけていくと、自分にとっての意味(価値観や大事にしている事、自分の存在価値など)が考察されるだろう。その意味によって点と点がつながっていくのである。その意味のある行動を今後もやっていくときっと今後の人生をhappyにするであろう。

missionは、その人の存在意義そのものであり、アイデンティとも言えるものだ。会社とか家族とか除いた時に自分はこの世の中でどの様な使命を持って生きていくのかという問いに答えるものだ。ここは非常に難しい。筆者の場合は、過去の体験を何度も何度も振り返るなかで、価値観とは違う何か自分が面白いと感じている「繰り返していた事」を掘り下げた。それは自然とそうしているのであり、無理してやっていたことでも無い。しかしながらそれをやっている瞬間は、非常に充実感があったという記憶なのである。映像や周囲の声、体の感覚までも蘇ってくるのである。それが自分のミッションか!?と決めた時は、自分の身体に世の中の存在意義が見えたというなんとも言えない感動で武者震いがするような感覚であった。

visionは言わずもがな夢である。全世界、宇宙、といった大きな世界観のなかでどんなことを実現していたいのかというスピリチャルなものであったり、意志先行で作られた実現してみたい希望のようなものであったり、出処は様々だとおもうが、将来実現したいことである。

values mission vision と書いてきたが、ニューロロジカルレベルではvaluesに支えられてmissionがあり、その上位にvisionがあるという三角形の構造を示している。そして大事であり、注意が必要なのは、VMVに一貫性があるかという点である。大切している価値観はこうで、私はこういうミッションを持っているので、将来はこうしたい。逆に、将来こうしたいと思っていて、というのも私のミッションはこうで、そして大事にしている価値観はこうだからということなんです。というように自分の言葉で一貫性を持って表現できたら最高だと思う。ここでいう「自分の言葉で」という所は極めて重要なポイントになるので、読者の皆さんには熟考願いたい所である。VMVに一貫性を感じ取れない場合は、何度も何度もVMVを行ったり来たりしながら、一貫性を磨いて行けば良いのである。

また、ニューロロジカルレベルはこの下にも概念を持っており、how(どんな能力を使って) what(どんな行動を起こすのか)when/where(いつ、どこで)と言った具合に現実味を帯びた実際の能力、行動、時刻・環境という構造になっているのだ。上位概念が下位概念に影響を及ぼすので、先のVMVが重要である事は読者の皆さんも直ぐにご理解いただけるものと思う。

ニューロロジカルレベルの概念を上位概念から下位概念を流してみるとこうなる。「私は将来にはこうしたい、それは私にはこういう存在価値があり、こういう価値観があるからなのです。だから私はこういう能力を使って、こんな行動を、明日、あの場所で行うのです。」と言った具合になり、こうみると本当に一貫性が大事なのだ。

組織のVMV(Values・Mission・Vision)は、最初は、個人のものである。

読者の皆さんの多くはビジネスマンが多いだろうと思うので、一つ質問をしておく。それは「経営理念とは何か」「そこへ盛り込まれる内容は、どんなものか?」という質問である。そこに書かれているものは、この会社の考え方だとか、方針だとか、哲学だとか、いろんな言葉でおそらくお答えになるだろう。しかしながら、考え方?とか方針とか?哲学とか、具体的には何か?という形のさらに深い質問に答えられるだろうか。ここまで質問していって、答えられる人はもちろんいるのだが、ロジカルに整理していく資質のある技術者のほとんどはどんどん解からなくなることが多い。多くの著名な書籍や研究などを見てもわかる通り、いろんな形で表現されるが、ここは技術者向けにもわかりやすい表現の仕方をするものを推奨しておく。以下の要件が満たされたものを経営理念という。Mission(組織の使命) 、Vision(将来のありたい姿)、Values(組織の大切にする価値観)が包含されたものである。組織の使命とは、組織の世に中における存在価値であり、アイデンティティでもある。ビジョンは将来のありたい姿である。そして、組織の大切にしたい価値観とは、その組織にとって何が大事で、何が大事ではないかなど、ものごとの判断や、その組織の独自性や差別性を表現したものと考えて良いだろう。これらは、簡単に言ってしまえば、組織の性格をある程度規定してしまうものという事になる。これら三つが盛り込んであるものが経営理念というようだ。いろんな考え方があるので「~ようだ。」という表現をしているが、筆者はもともと技術屋なので、この三つで解釈した方が論理的でわかりやすいと思っている。

さて、この経営理念はニューロロジカルレベルで紹介したVMVと全く同じだとお気づきだろうか?なぜそうなっているのかは、そもそも会社ってどんな歴史を辿って存在しているのかを考察すればよくわかる。会社の成り立ちは、一人の個人のVMVがあってこそ、会社が始まるのである。今で言うならば起業家である。最初はおそらく一人の会社で社長(その一人は自分)を始めるのである。最初は資本が無ければ、その本人のVMVをいろんな人に聴いてもらったりしながら共感者を得て投資をしてもらって、一人で会社を始める。そして売り上げを上げながら成長して行き、一人ではできなくなったので社員を雇い入れる。そしてまた、成長とともに社員が増えていく。従って、この会社のVMVは、最初はスタートさせた社長一人のものであったものが、集まった仲間もそれを共有している状態となって、会社の経営理念という形に表現を変えて目に見えてくるという事だ。かなり簡単に書いたが原理はそこにある。一人のVMVが経営理念に変わっていくということである。

Values・Mission・Vision と 

ニューロロジカルレベル

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