top of page

風土改革の実例
~第2幕~

 

ある会社の研究開発部門の風土改革

マネージャーが社長と議論して、いきつく先は改革だった。共有の価値観・アイデンティティー・ビジョンを作るまでの過程を追った実例の物語である。

(実例としてのストーリーですが、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。)

NYC Skyline BW

第2幕

改革ミーティング2回目

 話にはいる前に、先に宿題としていた7s分析のフレームについてその内容を解説しておこう。7Sは次に解説する7つの要素から成り立っており、戦略と他要素との相互の整合性についてそれらを関連付けながら改善や改革ポイントを分析していく際に使われるツールである。改革をしたいという場合、大方が恐らくは中長期ビジョンを含む中長期の戦略を立てたので、その方向へ組織全体が進めるよう今の問題を克服しながら改革を行って行く場合などである。この時、組織内のすべての要素に目を向けなければ、所々にひずみがくる。従ってすべての要素に目を向けて分析を行い、改革の打ち手を探るときに多用されるツールである。7SのSはその頭文字からつけられたもので、以下の要素から成り立っている。

 Strategy :戦略

 Structure:組織形態の特徴(機能別組織/事業部別組織、あるいは組織の階層が多い/少ないなど)

 System  :公式または非公式なものも含めて意思決定のプロセスや情報の流れるプロセスに関する特徴。

          管理会計や人事制度なども含む

 Style      :企業文化・風土(何をすると誉められる、怒られる、どんな人が評価されるといった、会社が持つ美意識のようなも

                   の)

 Staff      :社員の特性・能力(慎重/大胆、思慮深い/フットワークが軽いなど)

 Skill       :企業に蓄積されている能力(社員個人の能力というよりは、人が変わっても受け継がれている会社の力。たとえば企

                  画力に優れる、営業力に優れるなど)

    Shared Value:明示的、もしくは暗黙に共有されている企業の価値観。自社の存在意義など

 

  なお、Strategy、Structure、Systemの3つを「ハードS」、Style、Staff、Skill、Shared Valueの4つを「ソフトS」という。 

  さて、読者の皆様にある程度ご理解いただいたところで、2回目のミーティングの話を先に進めたいと思う。

まずは宿題を確認して行く必要がある。前回と違い今回は幾分か和やかな雰囲気でスタートした。それぞれが自分で7sに沿って分析した事を話してもらい、その認識について、一項目ずつ合っているとか、そうかなー? とか、言いながら確認していった。NP社の共通に認識されていると思われる一つの価値観はまずは大体揃ったが、その揃い方は、社として社長が言っている価値観そのものであった。「安心、安全」である。これならどのメーカーであっても日本なら同じだ。もう少し突っ込んで話を聞いていくと、それを「ABC品質」といっているのだが、それは結局「お客様品質」といっているに変わりないのだと筆者は感じたのである。そこで

「お客様は誰ですか?」

と、聞いてみたところ様々な答えが帰ってきた。第3事業研究部の古葉部長は

「ABCとは全く関係ないところのお客様なので、ABCの意味とは単なる安心安全なんですよ。別にABCでなくても良いんです。」

少しトーンが高くなった口調で答えてきた。

「他の皆さんはどうでしょうか?」

新規事業研究部の野原部長は、

「私のところも違うんです。だから安心・安全という理解。」

第2事業研究部の浜野部長は

「確かにABCって何だろう?」

と腕組みしながらぼやいたのである。筆者はABCはもっと深く追求した方が良いだろうと感じた。しかしながら、全員が安心安全を自分の組織に噛み砕いて展開しているのは間違いなく、例えば、安心安全をさらに追求する事でさらに良いものを作るというように、しっかりと根付いている事は、真なる信念として素晴らしい事だと感じたのは事実である。いい浸透をしているとも感じた。ただ、気をつけなければならないのは、安心安全はお客様にとって、特に日本人には当たり前の事であって、安心安全だけでは決して売り上げが上がるかと言うとそうは言い切れないのである。市場で売り上げを上げる事とは違うのである。また、安心・安全だけでは、守りの組織文化に陥いり、新しいもの・事にチャレンジしなくなる社員が増え、改革、イノベーションとは程遠い文化に陥る事が割と多いので、そういった事を防ぎたいのであれば注意が必要だ。

「ABCはともかく、安心・安全という価値観は浸透しているようですね。」

と、一旦ABCはおいておく事として、 違う視点で質問した。

「少し議論を進めさせてください。次は、もっと深い部分で組織の癖のようなもの、普段気づかないままそうしている事や行動している事などから、その奥深くに潜む信念とか価値観を観ていきたいと思っていますが、そういった事は何か無いでしょうか?」

これはいわゆる暗黙的に支配している信念や価値観である。そこにどっぷりと浸かっていると気づかないものだ。筆者は

「普段の行動は必ずその奥にある価値観や信念があり、それに気づかないまま行動しているので、7Sのstyleや他の切り口からも行動として見えてくるものがあります。また、その行動から暗黙的な信念や価値観が見えてきます。その点も見て欲しい。」

と付け加えた。ああでもないこうでもないという議論が続いている中で、新規事業系の野原部長が一言。

「優しいんですが、不親切なんです」

と出てきた。うつむき加減で、あまりしゃべっていない彼女がちょっと体全体を緊張させた感じで話したのである。古葉部長はそれに反応して

「確かにそんな事があるかもしれない」

といって目線を上にあげ過去に起こった事を想起しているようであった。これを機に宿題として書いてきた事はそっちのけで、想起された過去の出来事を

「そいうえばこんな事もどうだろうか」

と、思い出すままどんどん本音ベースで話が出て来るようになったのである。みんなの顔が、

「えっ!そういえば!」

という驚きや、

「しまった!それもか!」

というように、七変化である。かなり盛り上がった。そして、いくつかこんな事があるというある程度納得感のあるものが次のように出てきたのである。

「styleから見ると『石橋を叩いても渡らない』というのは、責任を取りたくないというような事かも。大体、新しい事はああでもないこうでもないと議論はするのだが、そのリスクは誰も取らないから結局ポシャってしまうことが多い。」

「安心安全の度が過ぎて、守りの姿勢にあるのではないか。」

「過去はチャレンジしたものだが、その事業が大きく成長している時は、とにかく品質を守るためにマニュアルや基準書といったものをよく作った。後から入社してきた人は、マニュアルを守ることが仕事となってしまい、深く技術を突っ込んで研究することがなくなった。その辺から守りになったのか?」

また、

「異動も硬直的で、異動した人は何かをやらかしたから、という話も耳にする。ここから推察すると、失敗すると異動させられるから、失敗しないようにという気持ちが優先し守りの姿勢となっているのではないか。さらに、責任を取りたくないから、人の事にはあまり口出しせず不親切となるんではないのか?」

などと議論が続く。また、

「skillからみると、一人ひとりの資質は高いものはあって、そこそこはチャレンジをしているようなやつもいる。だけど人の事には手を出さないし、優しそうな感じであるのを見ると羊の顔をした一匹狼ではないのか。」

と続く。

時間は気にせず、吐き出すだけ吐き出したほうが良いだろうという雰囲気だったので、筆者はあえて議論は止めなかったのだが、さすがに3時間が経過すると疲れてきたのか口数が少なくなったので、議論をいったん止めることとした。

暗黙的にその組織を規定してしまう価値観や信念といったようなものはどの組織にでもあるものだ。それがマイナス面を助長するようなものであれば、変えていく事が重要である。本日はフリーディスカッションの3時間程度の議論であったが、暗黙的に支配している信念や価値観を考え話した事によって、これからなすべき事を考え決めていく上での重要な会議となったのは間違い無かった。そして、次の会議に向けて、以下の宿題を出した。

「ありたい姿をイメージしながら、どんな価値観や信念を持ちたいのかを言葉にしてくる」

というものである。

ここまで腹を割った議論ができていれば、次からはいよいよ価値観を作り込んでいく会議に持って行けると感じたからこの様な宿題を出したのである。そして、筆者は

「向かうべき課題を7Sの視点で書いてきてもらってはいるが、価値観の無いところで仕組みなどを作っても各施策がバラバラになってしまうので、価値観を一旦決めてから再度検討いたしましょう」

とも付け加えた。ここは向かうべき課題や施策を考えてきた彼らには、肩すかしにあったと思われただろう。しかしながら、前回に7sの視点で向かうべき課題も宿題にしたのは、この視点からも現状の問題だと思っている事が価値観や信念も含めて表面に出てくるだろうと踏んだからである。会議の間は、実際にこの向かうべき課題シートも観ながら議論した事は付け加えておこう。

改革ミーティング2回目

bottom of page