top of page

風土改革の実例
~第6幕~

 

ある会社の研究開発部門の風土改革

マネージャーが社長と議論して、いきつく先は改革だった。共有の価値観・アイデンティティー・ビジョンを作るまでの過程を追った実例の物語である。

 

(実例としてのストーリーですが、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。)

NYC Skyline BW

6

改革ミーティング6回目

 

  今日からやっと施策を決定して行く事になる。事前に横並びにした表をお願いしておいたが、5回目が終わるとそれは翌日にはメールにて送られてきた。また、その数日後には他の部長がさらに手を加えたものが再送されてきた。みんなやる気満々である。課題を分類していくと、大きくは1)時間を創出する事、2)新技術のテーマ推進、3)教育施策・留学、4)技術や人の交流、であった。さらにこの中を詳細に見ていくと、重要な課題は時間を創出する事の中で、開発案件やテーマをスクリーニングするような会議体を設けること、そして15%ルールのような自由な時間を作ることであろう。そもそもこの改革は、15%ルールのようなものをやりたい!とある部長が社長に進言してから始まったものなので、ことさらここへの想いは強いのである。明日を拓く創造エンジンとして、新商品の売り上げ貢献は、今でも高いのであるが、これを今後さらにあげて行き、Always Fun for Fanをやる事になる。さて、どんな仕組みをつくる事になるか、スクリーニングするといってもその基準の代表がラインを創るのは用意ではないし、時間を創出するといっても今までの仕事をある程度切る事になるので、これも容易な事ではない。かなりの時間とアイデアを使う事になるであろう。

  会議は始まった。まずはVMVの確認である。ここは綺麗なパワーポイント資料がすでに出来上がっていたので、全員がしっくりときていて、

「こんな風に綺麗にまとめてあると本当にすごいですね。さすが古葉部長。」

と言った感じで、特に新たに意見はなく、互いに褒めあって終わった。この間10分間ぐらいだっただろうか、安堵感と達成感に満ちた会話だった。

  次に施策の議論に移った。先に分類したものについて本人から説明をしてもらい、細かい施策の内容の紹介もしあったが、細かいレベルで話していても収拾が使いない状況で話が進んでいった。そういう中で、この表をまとめた古葉部長から、

「実は、もっと本質的な課題として設定し直すとこうなるんだけど、いかがでしょうか?」

と投げかけがあって、すかさず作ってきたエクセル表をプロジェクターに映し出したのである。

「それは3つあって、1)中長期的な計画(テーマ設定のスクリーニングも含む)、2)時間の余裕を創る、3)風土の改革  なのだと思う」

という発言であった。筆者はさすがに本質をついた課題設定だと感じた。他のメンバーから、特に意見も出ないので、あえて他の人に質問して行く。

「中長期的なテーマは新規事業研究部でやっているのでは?」

するとすかさず

「新規事業研究部は中長期的なテーマといっても限りなくマーケティングに近いところで、経営の意図する新規事業ドメインに限って、新しい商品カテゴリーを模索しながら技術的な課題を研究している」

ということであった。提案してきた部長が意図している中長期的なテーマといっているのは、新規事業研究部がやっている新規事業以外の既存事業の事を指すものであった。

「技術的なイノベーションを生むのは研究員のひたむきな技術の深耕からも出てくるのであって、そういった活動を既存事業で日頃研究員がやらなければならないのに、できていないのであります。技術的な中長期的の計画をあえて創る事によって、そういう状況を打破し、まさしく明日を拓く創造エンジンになろうという意図があるんです。」

これには、主力事業の浜野部長も納得であった。首がかなり縦に振られているのが確認できた。

「やっていないわけではないが、優先順位が下がり、挙げ句の果てには、全くやらなくなったりしている事があるんだよなー。すごく大事な事だと思っているんだが。」

と同調している。この様なやりとりがあって、この本質的な課題は全員の納得のもと設定された。

  次に時間の余裕を創るというものだが、どうもここが全員の悩ましいところなのである。主力事業の浜野部長曰く、

「テーマは我々が設定しているのではなく、ある上役から優先順位や人的資源を考えずにどんどん降りてくるんですよ。」

筆者はあぜんとした。マネジメントの出来ない上役がいては、どうしようもない。しかしながら、普通のサラリーマンであれば、上役から言われてある程度納得のできる事ならば、それに従うのは当然だろう。また、

「案件は無茶苦茶なわけでは無く、現状必要と思われるような、一応考えられてはいるんですが、人的資源や優先順位のほうがあまり考えられていないんです」

と付け加えられた。こういう状況であれば、時間がなくなって行くというのもしょうがなく受け止めるしかないと筆者は感じたのであった。また、西田部長のところも、売り上げを上げるために次から次に商品開発依頼があって、すべてを受けるしかないという感じであった。本当に必要な商品なのかどうかスクリーニングを行う部署が無いので、そうせざるを得ないというものだ。この様なやりとりがあって、ここを解決するにはどうするか、かなり全社的な課題であるので、筆者はこういう提案をした。

「まずは仕事が生まれるところから、事業部がそれを受けるまでのプロセスを洗いざらい出し合って、そこに潜む問題を経営に認識してもらい、社長に力添えをもらうような状態に持っていく事が大事な事なのではないでしょうか」。

全員がうなづいているものの、そんな事ができるのであろうか?という感じがこちらには伝わって来た。筆者は続けた。

「本質的な仕事のプロセスを改めて作り上げる事が、価値創造エンジンになり、時間の余裕を創るのに、大事な事なのではないか」

この場は全員とも納得せざるを得ない話だったため、現状のプロセスと施作について両方プレゼンするという感じでまとまった。

  時間もかなり経過した。次に、コミュニケーション活性化などの風土の改革についてであるが、

「施作レベルが◯◯勉強会やイベントのようなものであれば、ここに出席されている部長が考えるのではなく、次席もしくは社員から募集してはいかがでしょうか」

と、こちらから提案した。また、

「改革の本質はここまで議論して来た、中長期的な課題を進めて行く仕事のプロセスや時間の余裕を創るための仕事のプロセスを変えて行く事が改革の本丸でしょう。」

これについては、全員がそう考えていたようで、すぐに決着した。

「次席の社員に考えてもらいたい。」

全員が賛成してここは一段落である。ただし、筆者が付け加えたのは

「今回決めた理念はじっくりと納得行くまで説明する責任があるという事。どんな方向性で行くのか、ビジョンも含めしっかりとすり合わせる事、そして遂行のフォローをしっかりする事は、部長が責任を持って、行動指針に従ってやって行く事が重要になります。」

  この様にして、施作の大きな課題を三つに決めたのである。そして次回に向けての宿題は、この3つの課題に対して事業研究部ごとに考えてくる事、ただ事業の性質が違うため施作は異なってくる可能性が高いので、それぞれが考えてくる事、そして社長への中間プレゼンテーションのシナリオのたたき台を作ってくる事とした。シナリオについては

「どなたかお願いします」と振るや否やシナリオのたたき台は、社長に噛み付いてこの改革に導いた部長がすぐに手を上げた。どんなシナリオのたたき台になるか楽しみである。

改革ミーティング6回目

bottom of page